2026年のノーベル化学賞に、日本の化学者、硤合憲三(そあい・けんそう)先生が選ばれました。その研究成果である「硤合反応」は、生命の起源にも関わる興味深い発見です。
私たちの右手と左手を見てください。形はよく似ていますが、どれだけ回転させても完全には重なりません。実は、分子にも右手型と左手型があるのです。
不思議なことに、私たちの身体をつくるタンパク質のアミノ酸は、ほぼ左手型(L型)だけで構成されています。なぜ生命は片方を選んだのでしょうか。
硤合反応は、この謎を考える重要な手がかりです。
例えば、右手型と左手型の分子がほぼ同じ数だけあっても、右手型がほんの少し多いとします。すると、右手型の分子が、自分と同じ右手型の分子をつくる反応を助け、さらに右手型が増えていきます。
つまり、最初はごくわずかな違いだったものが、自分自身を増やす働きによって、大きな違いになるのです。これを「不斉自己触媒反応」といいます。
この発見は、生命がなぜ特定の形の分子を利用するようになったのかを考える上で重要です。ただし、生命誕生の謎そのものが解明されたわけではありません。
私たちの身体が、右手型ではなく左手型のアミノ酸を使っている。その当たり前に思える事実にも、まだ解明されていない謎があるのです。
科学の面白さは、身近な当たり前に疑問を持つことから始まるのかもしれません。




